The Coronavirus in America: The Year Ahead
導入部
20人以上に及ぶ専門家が、我々が元の生活にすぐに戻る可能性はないだろうと述べている。しかし、現在直面している苦難と長い目で見た苦難には、どうにか適応できる希望がないわけではない。
新型コロナウイルスはアメリカの大都市から郊外にまで広がっており、ついに田舎にまで到達しはじめた。このウイルスは数百万人に感染し、34,000人以上が死亡したといわれている。
しかし、トランプ大統領は今週、経済活動を再開するためのガイドラインを提出し、アメリカの大部分の地域が近いうちに通常に近い状態に回復すると述べた。目下数週間の間、この危機と我々の将来に対する政権の見解は、政権の顧問医師や科学者一般の見解と比べて、バラ色のお花畑のように随分と楽観的である。
実際には、この新型コロナウイルスによる危機によって今後世界がどのようになっていくのか、誰にも分からない。公衆衛生、医学、疫学、歴史の専門家20人以上が、詳細なインタビューのなかで自身の見解を披露した。私たちはいつ外出自粛から解放されるだろうか?有効な治療法の確立やワクチンの開発まで現実的にはどのくらいかかるだろうか?ウイルスを寄せ付けないようにするにはどうするべきだろうか?
アメリカ人はひとたび能力を発揮すれば、創意工夫によりこの苦難を乗り越えるために大いなる進歩を遂げるだろうと考える人もいる。前進するための道筋は確かに困難ではあるが、実行可能な対策を粛々と行っていけるかどうかにかかっている。注意深く時間差を設けながらの都市封鎖の解除、広範囲の検査と状況の監視、有効な治療の確立、医療従事者への十分な医療物資の確保、そしてゆくゆくは有効なワクチンの開発が必要である。
依然として、今後一年の状況に対する悲観的な予測を避けることは不可能だ。トランプ大統領が毎日開かれる記者会見で展開し続けているシナリオ–都市封鎖は間もなく終了するだろう、ウイルスから身を守るための薬がもうすぐ出来上がるだろう、サッカースタジアムやレストランは近いうちに人々で溢れかえるだろう–は夢物語であると大多数の専門家は述べている。
「我々は陰鬱な未来に直面している。」と前全米医学アカデミー長であるHarvey V. Fineberg博士は言う。
彼とそのほかの専門家は、人々がイライラしながら何ヶ月も家の中に閉じ込められる生活を送ることになるであろう、中でも感染すると重症化しやすい弱者は隔離期間がずっと長くなるであろう、ということを見越していた。専門家たちは、ウイルスの脅威に晒された状態が長期化し、その状態に疲れ切った国民が危険性を顧みずに規制を撤廃し、安全性が確かめられていないワクチンが科学者の制止を振り切って使用されるのではないかと懸念している。
「楽観的なことを述べるなら、ウイルスの感染は夏には落ち着き、ワクチンが騎兵隊の如く出来上がってウイルスを駆逐するだろう。」と予防医学の専門家であるヴァンダービルト大学医学部のWilliam Schaffner博士は言う。「ただし私は根本的に楽観的な生来の気質を抑えることを学んでいる最中だ。」
大半の専門家は、ひとたび危機的状況を脱すれば、国家とその経済はすぐさま息を吹き返すと信じている。しかし、激痛から逃れるすべはないだろう。
世界的な感染爆発がいかにして収束するかは、部分的には、未だ訪れていない医学の進歩にかかっている。さらに、アメリカ人一人一人がその過程においてどのように行動するかにもかかっている。もし我々が我が身と愛する人を最新の注意を払って感染から守るならば、より多くの人が生き残るだろう。もし我々がウイルスを甘く見れば、ウイルスは容易に感染すべき者を見つけ出すだろう。
ホワイトハウスが示した数値よりも多くのアメリカ人が亡くなるかもしれない
新型コロナウイルスによって引き起こされる感染症であるCovid-19は、現在(4月18日)ではまず間違いなくアメリカ人の主要な死因である。4月12日以来、このウイルスによってほぼ毎日1,800人以上のアメリカ人が亡くなっており、公式発表の死者数は実際より少ないのではないだろうかといわれている。
参考までに、アメリカ人の一日あたりの心臓病による死者数は概ね1,774人、癌による死者数は1,641人である。
確かに、新型コロナウイルス患者数の上昇は鈍化してきた。感染爆発の中心地であるニューヨークにおける入院患者数も減少してきたし、ICU内の患者数も減少してきた。日々の死者数は依然として残酷なほど多いが、すでに一日あたりの死者数の増加は収まっている。
よくホワイトハウスに引用されるワシントン大学保険指標評価研究所(Institute for Health Metrics and Evaluation:IHME)が作成している疫学モデルでは、当初は6月下旬までに死者が100,000~240,000人に達すると予想していた。しかし、現時点での予想死者数は60,000人に修正されている。
死者数が当初の予想よりも低くなったのは喜ぶべきことだが、だからといって重要な懸念を忘れてはならない。この研究所の予測は8月4日までであり、この感染症の流行の第一波しか評価していない。ワクチンが実用化されなければ、ウイルスは数年に渡って各地で猛威を振るい続け、死者数は時間とともに増えていくだろう。
現時点までの成果は国中を封鎖したことによってもたらされており、この状況は無期限に続けられるものではない。ホワイトハウスの「段階的」封鎖解除計画は、どれほど綿密に実行されたところで、確実に死者数を増加させるだろう。この計画が実行される中で最も望ましいのは死者数を最小限に抑えることだ。
今後どれほどのアメリカ人が亡くなるかに関する信頼性の高い長期にわたる予測は様々なものがあるが、どれも残酷なほど多い数値である。3月に疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)に意見を求められた多方面の専門家たちは、もし感染拡大を防ぐためのなんの手立ても講じられなければ、アメリカ人全体の48~65%が新型コロナウイルスに感染し、致死率はわずかに1%を下回る程度で、最大170万人が亡くなるだろう、という予測を出した。
3月30日に大統領が引用したインペリアル・カレッジ・ロンドンの研究者による予測モデルでは、同様の状況下では9月までに220万人のアメリカ人が亡くなるとされている。
参考までに、第二次世界大戦で亡くなったアメリカ人は42万人である。
新型コロナウイルスに関する中国の限られたデータによると、状況はより一層思わしくなさそうである。現時点では中国の感染拡大は落ち着き、事実上、第一波の全ての感染者は亡くなったか、または回復した。
中国の公式発表では、感染者数約83,000、死者数4,632であり、致死率は5%以上である。トランプ政権は、政権の示している予測致死率などの数値が疑問視されていても、より正確な数値を出そうとはしていない。
致死率は、医療崩壊の度合いと、実際の感染者うちのどれだけが検査されて把握されているかに大きく左右される。科学的根拠に基づく医療センター(Centre for Evidence-Based Medicine:CEBM)の報告によると、武漢が大混乱に陥っていた1月の最初の週には、中国における致死率は17%だったが、2月の終わりにはたったの0.7%だったという。
我が国では、ニューヨークを含むいくつかの都市の病院が、医療崩壊になるかどうかの瀬戸際の状態にある。武漢市とニューヨーク州当局は今週、Covid-19、脳卒中、心臓発作、その他の原因、さらには救急車を呼んでも来なかったために、多くの人が自宅で亡くなっていたことが明らかになり、新型コロナウイルスによる死者数を上方修正しなければならないだろう。
状況が目まぐるしく変化する感染症の大流行期においては、医師が検査可能な人数よりもずっと多くの患者が病院になだれ込んできたり、自宅で死亡したりしている。同時に、軽症や無症状の患者は検査されない。これらの二つの要因は、真の致死率を真逆の方向に歪める。正確な感染者数が分からなければ、どれほどの致死率のウイルスなのか分からないのだ。
数万単位の抗体検査が実施されてやっとアメリカにおける無症状のウイルス感染者数の概数を把握することができるだろう。CDCは、無症状の感染者の割合は、検査で陽性となった人の25%ほどではないかと示唆している。アイスランドの研究者は、その二倍ではないかと述べている。
中国も自国の概算を修正している。2月には、主要な研究によって、武漢の感染者のうち無症状だったのはたった1%だったと結論づけられた。新たな研究では、その数値は60%に達するのではないかとされている。我々がこの感染症について知り得た情報は、疫学者泣かせなほど少ないのだ。
「どの予測モデルもただの予測モデルにすぎない。」とホワイトハウスのコロナウイルス対策本部科学顧問であるAnthony S. Fauci博士は言っている。「新しい情報が得られたら、予測モデルは変化するのだ。」
この一貫性のなさの中には良いニュースが埋まっているかもしれない–ウイルスが弱毒性に変異しつつあるのかもしれない。映画の中ではウイルスは強毒性に変異するものだ。だが実際には、無症状の型のウイルスの方が宿主を獲得しやすいため、強毒性に変異することは多くない。1918年のスペインインフルエンザでさえ、だんだんと季節性H1N1インフルエンザに弱毒化していった。
現時点では、我々はこのウイルスがどれほど感染力が高く、どれほど致死率が高いか正確に分かっていない。しかし、遺体安置・移送用の冷蔵トラックが何台も病院の前に停まっている光景が、我々が心に留めておくべきことを伝えている–今の状況は鳥インフルエンザの流行期よりもずっと悪い。
都市封鎖はいつかは終わるだろう ただし紆余曲折を経た上で
現時点までに何人のアメリカ人が感染しているのか、誰にも分からない。推定では3%〜10%とばらつきがある。しかし、少なくとも我々のうちの3億人に感染する危険があるのは間違いないだろう。
有効なワクチンまたはウイルスから身を守る方法が出現するまで、外出自粛措置を安全に解除できるシナリオはないというのが、疫学者たちの考えだ。
もし大勢のアメリカ人が外出自粛に飽きて出歩いたら、おそらく3週間くらいは何事も起こらないように見えるだろう。
そして、救急治療室がまた患者で溢れかえる状態に逆戻りするのだ。
「『しばらくの間避難していれば、必要なワクチンが実用化されているだろう。』というような、中世の呪術じみた根拠のない考えを持つ人がいるようだ。」とベイラー医科大学熱帯医学学院長であるPeter J. Hotez博士は言う。
Tomas Pueyo氏は、3月19日にMediumに投稿した非常に有名な記事「Coronavirus: The Hammer and the Dance」の中で、全国的な都市封鎖を正確に予測していた。彼は全国的な都市封鎖をハンマーと呼び、その後にダンスと呼ぶ、最低限度の人員による学校再開や工場再稼働を含む経済活動再開の重要な段階である新しい局面がやって来ると述べた。
どの疫学モデルもこのダンスに相当する局面を想定している。そのどれもが大勢が集まるような活動が活発化するたびにウイルスが大流行し、都市封鎖を再開しなければならなくなると想定している。そしてこのサイクルが繰り返される。疫学モデルでは、死者数の上下を表すグラフはまるでサメの歯列のように見える。
疫学モデルの予測では、スタジアム、教会、映画館、バー、レストランを閉鎖したままにし、海外から来た全ての入国者・帰国者を14日間隔離し、感染拡大が激しい地域から落ち着いている地域へのさらなる感染拡大を防ぐために国内旅行を厳しく規制したとしても、死者数の急激な上昇は避けられないという。
規制が厳しいほど、死者数は少なくなり、都市封鎖と都市封鎖の間の期間も長くなると専門家は述べている。ほとんどの予測モデルが、アジアの国々ですでに日常的に行われているように、アメリカ合衆国もゆくゆくは大規模な体温検査、迅速検査、接触者追跡調査を行うだろうと推測している。
トランプ大統領が4月16日木曜日に公開した「Opening Up America Again」というガイドラインでさえ、三段階の社会的距離について書かれており、感染しやすい人は外出自粛を続けることを推奨している。その計画では検査、隔離、接触者追跡調査が行われることになっているが、それらが具体的にどのように行われるのか、どれほどの期間行われるのか、明確に述べられていない。
前日に公表したガイドラインの内容と矛盾することにも構わず、4月17日金曜日、トランプ大統領はミシガン州、ミネソタ州、ヴァージニア州の都市封鎖に反対する抗議団体を応援するツイートをした。
中国は武漢、南京などの都市を徹底的な監視体制下に置き、新規感染者数がウイルスの潜伏期間である14日間連続で0人でない限り、都市封鎖の解除を認めなかった。中国やイタリアの措置に比べて、アメリカの措置はまだ子供の遊びのようである。
アメリカ人は国内線を利用することもできるし、行きたいところに車で行くこともできるし、街の通りや公園を歩き回ることもできる。様々な規制措置にも関わらず、子供のために密かに遊ぶ計画を立てている人や、裏庭でバーベキューをしている人や、出会い系アプリを使って相手を探している人がいることは暗黙の了解となっている。
結果として、アメリカの一日の新規感染者数が30,000人に及ぶ一因となっている。Schaffner博士は、「(マスクをしたり)バンダナを巻いていたとしても、集まってポーカーをするのは安全ではないと自覚する必要がある。」と述べている。
厳格な措置をとっているアジアの国々でさえ、ウイルスを制御するのには苦労している。
毎日100人程度の新規感染者を出している中国では、先ごろ再び国内の全ての映画館を閉鎖した。シンガポールは全ての学校とライフラインに関わらない職場を閉鎖した。日本ではついに緊急事態宣言が発令された。(韓国は感染拡大と戦ってきたが、日曜日にはついに新規感染者数が8人となり、この2ヶ月で初めて一桁になった。)
人命を守るという決意のもと、前CDC長であるThomas R. Frieden博士によって運営されている公衆環境衛生擁護団体が、いつ経済活動の再開が可能で、いつ都市封鎖をしなければならないかについての、詳細かつ厳格な基準を公表した。
都市封鎖の解除には、14日間にわたる感染者数の減少、90%の接触者が追跡可能であること、医療従事者の感染が収束すること、軽症者療養施設の確保、さらに他にも達成が難しい条件を満たすことが必要である。
「都市封鎖の解除は蛇口を開けるように徐々に行うべきであり、水門を開けるように一気に行うべきではない。」とFrieden博士は述べている。「今は、都市封鎖の解除を出来るだけ早期に実現できるように努力すべき時だ。」
免疫を持つ人は社会的に有利になる
新型コロナウイルスの感染から回復して免疫を獲得したと思われる人と、依然として新型コロナウイルスに対する免疫を持たない人の二つの階層にアメリカ人が分けられたとしよう。
「恐ろしい対立が起こることになるだろう。」WHOのCovid-19特使であるDavid Nabarro博士は予言する。「抗体を持っている人は旅行することも働くこともできて、抗体を持っていない人は差別される。」
すでに、免疫を獲得していると思われる人は各方面から需要があり、抗体採取のための献血を頼まれたり、感染リスクの高い医療系の仕事に臆することなく従事できたりしている。
近いうちに政府は、実際に免疫を獲得できているかどうかを証明する方法を考案しなければならなくなるだろう。ジョージタウン大学法科大学院の世界的流行病の専門家であるDaniel R. Lucey博士は、免疫が確立されると産生されるIgG抗体の検査が有効だろうと述べた。現在多くの企業が抗体検査の開発に取り組んでいるところである。
ホワイトハウスはドイツで提案されたような証明方法について議論しているとFauci博士は言っている。中国では、所有者の個人情報と関連づけられていて他人が借用することのできないスマートフォンのQRコードを使用している。
カリフォルニア成人映画産業界は何十年も前からこの証明方法の先駆者であった。俳優たちは過去14日間以内にHIVテストで陰性だったことを証明するのに携帯電話アプリを使用し、プロデューサーはパスワードで保護されたウェブサイトでその情報を確認することができる。
都市封鎖で監禁状態にあるアメリカ人が、免疫を獲得した他のアメリカ人が活動を再開し、果ては自分が失った仕事を代わりに得るのを見るにしたがって、自ら進んでウイルスに感染しに行くことで自分も彼らの側に回りたいと、非常に強い衝動に駆られるだろうことは想像に難くない、と専門家は予測している。特に若い市民は、ただ貧困化・孤立化していくのを待っているだけよりも重い病気にかかる危険を冒す方がまだましだと思うだろう。
「ハーバードの経済学者である娘は、自分と同年代の人々は免疫を獲得した人を増やし経済を回し続けるためにコロナパーティーを開くべきだと、私に言い続けている。」とスタンフォード大学グローバルヘルスイノベーションセンターを主導するMichele Barry博士は述べた。
人々が感染症に自ら感染しに行く現象は以前にもあった。キューバ政府は1980年代に、陽性患者を容赦無く隔離施設に強制的に移住させることでエイズの感染拡大を抑え込むことに成功した。移住の強制措置とは裏腹に、施設の居住者には自分専用のバンガロー、食事、医療、給与が与えられ、劇団や芸術の授業にも参加することができた。
アメリカでのFauci博士のような、キューバにおけるAIDSの専門家であるJorge Pérez Ávila博士は、何十人もの行き場のない若者が、この施設に入所しようとして、性行為や血液注射によって自らエイズに感染したと述べている。彼らの大半は抗レトロウイルス療法が導入される前に亡くなった。
自己感染はアメリカの若者にとっても大きな賭けである。明らかに肥満や免疫不全の人にはリスクが高すぎるが、痩せていて健康なアメリカ人の若者もすでにCovid-19によって亡くなっている。
ウイルスの感染拡大を抑制し続けるには、物的・人的資源の拡充が不可欠だ
今後の2年間は試行錯誤の期間になるだろう、と専門家は述べている。免疫を獲得した人々が仕事に復帰すればするほど、経済も回復するだろう。
しかし、あまりに多くの人が一度に感染したら、さらなる都市封鎖が避けられないだろう。それを避けるには、広範囲にわたる検査が必須だろう。
Fauci博士は、いつ感染拡大が収束したかは「ウイルスが教えてくれるだろう。」と言う。それはつまり、一日あたりの試験数が最低数十万件という全国共通の基準が確立され、国全体で適用されるようになれば、陽性の割合が上昇している地域でウイルスが広がっていることがすぐに分かるようになり、感染拡大地域と非拡大地域が見分けられるということだ。
Kinsaのスマート体温計のデータから作成された発熱レベルによって色分けされた地図を見れば、体温の上昇具合から感染拡大の兆候を早期に発見することができる、とSchaffner博士は述べた。
しかし、診断検査は初めからトラブルに見舞われ続けた。ホワイトハウスは迅速検査キットを十分用意すると確約したにも関わらず、医師と患者から検査キットの不足と準備の遅れに不満が噴出した。
ウイルスを抑制し続けるためには、アメリカでも軽症者を含む全ての感染者の隔離を実施し始めなければならない、と何人かの専門家が主張している。
アメリカでは、検査で陽性となった患者は自宅待機を要請されるが、家族との接触を避けることが求められている。
テレビのニュースでは連日、CNNのアンカーであるChris Cuomo氏のような有名人の感染者の様子、例えば、妻が階段の上に食事をを置き、子供が手を振って合図し、犬が引き返していく間、隔離中の地下室で一人奮闘しているところなど、闘病・回復の様子が放映されている。
しかし、Cuomo氏ですら、なぜWHOが感染者の自宅隔離に強硬に反対するかを身を以て示すことになってしまった。水曜日に、Cuomo氏は妻がウイルスに感染していることを公表したのだ。
「もし感染拡大防止策を一つ提案しなければならないなら、それは全ての感染者の迅速な隔離策だろう。」とWHOの対中国オブザーバーチームを率いるBruce Aylward博士は言った。
中国では、検査で陽性と判定された人は、どれだけ症状が軽くても、診療所型病院に入所することを求められた。そのような病院はしばしば体育館やコミュニティーセンター内に酸素マスクやCTスキャナーを設置して作られた。
そこで、患者は看護師に見守られながら回復した。そのことによって家族が感染する危険性が下がり、他の感染者と過ごすことで患者の恐怖心が和らげられる効果もあった。さらに、患者を元気づけ、肺の空気を入れ換え、筋肉を動かすために、看護師がダンスやエクササイズのクラスを開くこともあった。
依然として、そのように患者の隔離施設を設けることに関して、専門家の意見は二つに割れている。Fineberg博士は、ニューヨークタイムズへの共同寄稿において、患者の隔離は必須であるとしたが、「人間隔離過程」だと称した。
それに対して、ハーバード大学T.H. Chan公衆衛生大学院の疫学者であるMarc Lipsitch氏は、「私はアメリカ政府が強制的に人々を家族から隔離することを、政府を信頼して任せることはできない。」と反対する意見を表明した。
究極的には、感染拡大を抑えるためには、判明している全ての感染者の、全ての接触者を検査することが求められる。しかし、アメリカは全くもってその実現からは程遠い。
レストランや工場で働いている人には、数十人、果ては数百人の接触者が存在するかもしれない。例として、中国の四川省では、感染者一人当たり平均で45人の接触者がいたという。
CDCは約600人の接触者追跡官を擁しており、最近までに、州および地方の保健局は、主として梅毒および結核患者の接触者を追跡するために約1600人を雇用した。
中国は武漢だけで9000人を雇用し、接触者追跡官として訓練した。Frieden博士の概算によると、アメリカは少なくとも300,000人の接触者追跡官が必要になるだろう。
ワクチンはすぐには実用化されないだろう
3種類のワクチン候補(アメリカ2、中国1)に対する小規模な臨床試験がすでに始まっているが、ワクチンの開発には少なくとも1年から18ヶ月程度は必要だろう、とFauci博士は繰り返し述べている。
ワクチン開発に詳しい専門家は、そのスケジュールでさえ楽観的だと思うだろう。フィラデルフィア小児病院(CHOP)のワクチン科学者(vaccinologist)であるPaul Offit博士は、おたふくかぜワクチンの開発には4年かかったことに言及した。
ワクチンの開発を加速させるために何をなすべきかについての研究者の意見は大きく異なっている。RNAやDNAプラットフォームを用いる現代のバイオテクノロジー技術により、ワクチン候補の開発を今までよりも速く行うことができるようになった。
しかし、臨床試験には時間がかかる。一つには、人体内での抗体産生を早めることができないからだ。
さらに、原因はよく分かっていないが、SARSのようなコロナウイルスに対するワクチン候補が抗体依存性感染増強(抗ウイルス抗体の存在によりウイルス感染が増強される現象)を引き起こし、接種された人がウイルスに感染しにくくなるのではなく、より感染しやすくなったことがあった。過去には、HIVワクチンやデング熱ワクチンで予想外にも同様のことが発生した。
新しいワクチンは通常、最初に、若く健康な100人以下のボランティアで試験される。安全で、かつ抗体が作られるようであれば、さらに何千人ものボランティア—-新型コロナウイルスの場合は最も感染リスクが高い、医療現場などの最前線で働く人たちになるだろう—-がワクチン候補または偽薬のどちらかを投与される第III相臨床試験に進むだろう。
挑戦的臨床試験(challenge trials)を行えば、試験の進行を早めることが可能である。研究者が少数のボランティアにワクチン候補を接種し、ボランティアが抗体を産生したら、彼らをウイルスなどの抗原に感染させ、ワクチン候補が彼らを感染から守るかどうか「試す(challenge)」のだ。
挑戦的臨床試験はマラリアや腸チフス熱など、完全に治癒することが確かめられている感染症にしか行われない。普通の状態であれば、Covid-19のような治療法のない感染症に対して挑戦的臨床試験を行うことは、倫理的にありえない。
しかし、このような非常事態においては、速く結果を得るために少数のアメリカ人を高いリスクに晒すことは、数百万人のアメリカ人を何年にもわたってリスクに晒し続けるよりも倫理的だと主張する専門家もいる。
「少人数での挑戦的臨床試験を行えば、何千人も必要な第III相臨床試験を行うよりも、被害に遭う人が少なく済むだろう。」と、Journal of Infectious Diseasesに挑戦的臨床試験を支持する論文を発表したばかりのLipsitch博士は述べた。彼によると、すぐさまボランティアに志願する人が現れたという。
その考えを非常に不快に感じる人たちもいる。「私はその考えはとても非倫理的だと思う。でも我々がそのようなことに手を染める可能性があることは理解できる。」とLucey博士は述べた。
ワクチン科学者の説明によると、挑戦的臨床試験の隠れた危険性は、募集するボランティアの数が少なすぎて、ワクチンが問題なく良い効果をもたらすかどうかを明らかにすることができないことだ。ワクチン接種による重大な副作用は稀かもしれないが、危険な問題であるからだ。
「挑戦的臨床試験ではワクチンが安全かどうか確かめることはできない。」とミネソタ大学感染症研究政策センター長のMichael T. Osterholm氏は言う。「それが大問題になるかもしれない。」
コロンビア大学公衆衛生大学院(Mailman School of Public Health)のウイルス学者であるW. Ian Lipkin博士は、別の戦略を提案している。少なくとも2種類のワクチン候補を選び、人で簡易的な試験を行ったのち、挑戦的臨床試験をサルで行うというものだ。有望なワクチン候補の生産を即座に、さらには見つけにくい問題点を探すために人での検査を拡大している期間にも始めることができる。
ワクチンの試験が難航すればするほど、何億回分もの投与量のワクチンを生産することはより一層難しくなる、と専門家は指摘している。
大部分のアメリカのワクチン工場は年間たった500万〜1000万回分のワクチンしか生産できず、それらのほどんどは毎年400万人の乳児と400万人の65歳になる人のために必要だ、と製薬メーカMerckの前ワクチン部門長であるR. Gordon Douglas Jr.博士は述べた。
しかし、もし新型コロナウイルス用のワクチンが開発されたら、アメリカでは一回の接種で済んだとしても3億回分のワクチンが、二回の接種が必要なら6億回分のワクチンが必要になるだろう。さらに同じ数の注射器も必要だ。
「人々は大局的な視点を持つべきだ。」とDouglas博士は言う。「それだけ大量に必要なら、近いうちにどんどん生産を始めなければならない。」
インフルエンザワクチン工場は大規模だが、鶏卵で培養される動物個体培養ワクチンの工場は、細胞培養技術を用いる現代ワクチンの生産には向かない、と博士は言う。
欧州諸国はワクチン工場を持っているが、そこで生産されたワクチンは自国民のために必要だろう。中国は大規模なワクチン産業を持っており、今後さらに規模を拡張できるかもしれない。アメリカに輸出するためのワクチンを生産できるかもしれない、と専門家は言う。しかし、他に選択肢のない買い手は売り手の言い値を支払うしかなく、一部の中国企業の安全性と有効性の基準は不十分である。
インドとブラジルもまた大規模なワクチン産業を有している。感染がそれらの国の人口密集地域の人々の間で広がれば、数百万人の人々が亡くなるだろうが、アメリカよりもずっと先に大規模な集団免疫を獲得するかもしれない。そうなれば、ワクチン工場に他国に輸出できるような余力が生まれるかもしれない。
あるいは、ジョンズ・ホプキンズ大学医学部を引退した医学歴史家であるArthur M. Silverstein氏が示唆するように、発酵用の大だるを備えている蒸留酒工場やビール工場を政府が接収・消毒することがあり得るかもしれない。
「蒸留酒製造所がことごとくワクチン工場に転用されるかもしれない。」と彼は言った。
治療法の方がワクチンよりも先に開発されそうだ
短期的には、専門家はワクチンの開発よりも治療法の開発に対してより楽観的な見方をしている。中でも、いわゆる回復期血清(convalescent serum)が有望だとする見解がある。
その基本的な手法は一世紀以上に渡って用いられてきた。感染症から回復した人の血液を採取し、抗体以外の全てのものを取り除く。そして抗体を豊富に含んだ免疫グロブリンを患者に注射する。
実用化への障害は、現時点では血液を採取できる感染からの回復者が比較的少ないことだ。
ワクチンが一般化する前の時代には、抗体は馬や羊の体内で作られていた。しかし、その過程を無菌に保ち続けることは難しく、動物由来のタンパク質がアレルギー反応を引き起こすこともあった。
現代ではそれに代わるものとしてモノクローナル抗体が用いられる。この治療方式は、近年ではコンゴ東部のエボラ流行をほぼ終息させる成果を上げており、短期的に見た場合、最も革新的な治療法となり得るのではないか、と専門家は述べた。
最も有効な抗体が選ばれ、その抗体を作るための遺伝子が細胞培養液の中で増殖する良性ウイルス内に組み込まれる。
しかし、ワクチンと同様に、モノクローナル抗体を産生し、不純物を取り除くのには時間がかかる。理論上は、十分な生産量を確保できれば、命を守るためだけではなく、医療従事者など感染リスクの高い現場で働く人々の感染を防ぐために使用することもできるだろう。
抗体は壊されるまで数週間存在する–Silverstein博士によると抗体の存続期間は様々な要因に左右される–が、抗体はすでに細胞内に入り込んだウイルスを殺すことはできない。
工場で薬を合成して作る方が、ワクチンや抗体を産生し、不純物を除去するよりずっと速いスピードでできるので、毎日予防薬を飲む方が良い解決策になり得るのかもしれない。
しかし、もしそのような予防薬が開発されたとしても、アスピリンのようにどこでも手に入るようになって3億人のアメリカ人が毎日使用できるようになるまで、生産量を拡大しつづけなければならないだろう。
トランプ大統領がヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンに何度も言及するため、記者会見がライブコマーシャルのようになっている。しかし、臨床試験を終えるまで結論を下すべきではないというFauci博士の意見に全ての専門家が賛成している。
サリドマイドの試験が不十分だったために、1950年代に何千人もの子供にアザラシ肢症などの四肢奇形が引き起こされたことを思い起こした人もいるだろう。高用量のヒドロキシクロロキンを投与された患者に心拍異常が見られたため、複数のヒドロキシクロロキンに関する研究が中止された。
「私は誰もが高用量の投与に耐えられるとは思えない。さらにヒドロキシクロロキンが体内に蓄積すると、視力に問題が生じることがある。」とBarry博士は言った。「でもPrEP(曝露前予防内服)のような効果があるかどうかは興味深い。」と、HIV感染を予防するために用いられる薬に言及しながら付け加えた。
特にクロロキンとアジスロマイシンを併用するというトランプ大統領の考えに対して厳しい意見を述べる者もいた。
「完全に馬鹿げている。」と国家安全保障会議の医療および生物兵器防御準備局前局長であるLuciana Borio博士は言った。「私は家族にもし私がCOVID-19に感染しても、クロロキンとアジスロマイシンの組み合わせは投与しないでほしいと言っておいた。」
クロロキンは免疫反応を弱めるため、致死的なサイトカインストームによる肺炎で入院している患者の治療に役立つかもしれない、と述べる医師もいる。
しかしながら、クロロキンに抗ウイルス作用があることは確認されていないため、トランプ大統領が効果をほのめかしているのとは異なり、クロロキンの使用は感染を防ぐのに有効であるわけではない。
レムデシビル、ファビピラビル、バロキサビルを含む数種類の抗ウイルス薬が、新型コロナウイルスに対する効果を試験されている。後ろから2つはインフルエンザ薬である。
中国で行われた様々な薬の併用試験の結果が来月までに公表されるだろう。しかし、試験できる患者が足りなくなったために、それらの試験規模は小さく、結論が出ないまま終わった可能性がある。アメリカで行われている大部分の臨床試験の終了日は、まだ定められていない。
さらば「アメリカ・ファースト」
以前には考えられなかったような社会的変化がすでに起こってしまっている。学校や会社は全ての州で閉鎖されており、何千万人もが失業保険を申請した。税金や住宅ローンの支払いは猶予され、抵当流れは禁止された。
今週からこの危機を乗り越えるための給付金が当座預金口座へ振り込まれ始め、アメリカを一時的に福祉国家足らしめている。全国的にフードバンクによる活動が行われており、その配給には長蛇の列ができている。
国際的な連携を必要とするほど大規模の公衆衛生上の危機は、ここ数十年間で経験したことのないものだ。しかし、トランプ大統領は、このような事態において国際的な連携を促すことができる唯一の組織であるWHOへの拠出金を停止する動きを見せている。
さらに今年に入ってトランプ大統領は、今となっては世界で最も勢いのある停止していない経済を誇り、医薬品やワクチンの最も有力な供給者になり得る中国に対し、敵意をむき出しにしている。中国はこの感染爆発を自国の国際的な影響力を拡大するために利用し、医療機器や医療用品を120ヶ国近くに支援したと主張している。
中国から最も多くの支援を受けたうちの一ヶ国がアメリカである。さらにそれは、Project Airbridgeという、トランプ大統領の娘婿であるジャレッド・クシュナー氏の影響下にある航空貨物運行機関を通して行われた。
この世界では「アメリカ・ファースト」は実行不可能だ、と複数の専門家が述べている。
「もしトランプ大統領がアメリカにおける公衆衛生活動を促進したいなら、中国と協調する道を模索し、侮辱的な言動を慎むべきだ。」とコーネル大学の経済史家であるNicholas Mulder氏は述べた。彼はクシュナー氏のプロジェクトを、第二次世界大戦中の他国に対するアメリカ軍の援助になぞらえて「逆レンドリース」と称した。
Osterholm博士はもっと直球だった。「アメリカ至上主義の考えに基づいて中国を排斥すれば、中国は後々アメリカに復讐しに来るだろう。」と述べた。
「もし中国が最初にワクチン開発に成功したら?どの国にワクチンを売るかの選択権は中国にある。アメリカがワクチン売却先リストの最上位に位置しているとでも思っているのか?まさかそんなわけがない!」
ひとたび感染症の流行が終息すれば、アメリカの国力は迅速に回復するかもしれない。Mulder博士は、二度の世界大戦後に経済が再上昇したことに言及した。
心理状態の悪化による後遺症の実態は、より一層把握することが難しい。長期にわたる操業停止によってもたらされた孤立化と貧困が、家庭内暴力、鬱病、自殺の割合を上昇させるかもしれない。
政治的な考え方まで変化する可能性がある。当初、シアトル、ニューヨーク、デトロイトなどの民主都市で感染拡大が激しかった。しかし、ウイルスが全国的に広がるにしたがって、誰も感染から逃れられなくなるだろう。
新型コロナウイルスに対する準備不足や健康保険への加入が制限されていることに関してはトランプ政権を非難しない共和党寄りの州の有権者ですら、友人や近親者が亡くなるのを目の当たりにしたら考えを変えるかもしれない。
Pueyo氏は「Coronavirus: Out of Many, One」という追跡調査記事内で、今回都市封鎖に抵抗した州内で、かつ2016年も共和党に投票した郡における、医療保険制度と国勢調査のデータを年齢と肥満度別に分析し、物議を醸した。
彼の推定によると、都市封鎖に抵抗した州内の共和党への投票者は、そうでない人よりも、新型コロナウイルスで死亡する可能性が30%高くなるという。
二度の大戦後の期間に、社会と収入はより平等になったと、Mulder博士は言及した。社会的セーフティーネットにつながる退役軍人や夫を亡くした女性の年金のための基金が設立され、復員軍人援護法や退役軍人住宅ローン法案が採択され、労働組合は強力になり、富裕層に対する税制上の優遇措置は減っていった。
もしワクチンが人々の命を救えば、多くのアメリカ人が伝統医学をより信頼するようになり、気候の変動を含む科学全般をより受け入れるようになるかもしれない、と専門家は言う。
今回の都市封鎖の期間中にアメリカ都市部の上空に出現した青空が、封鎖解除後も永遠に続くような未来がありえるのかもしれない。
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