“Immunity passports” in the context of COVID-19
科学的概要
2020年4月20日
WHOは、COVID-19感染拡大防止策の一環として、公衆衛生と感染拡大を防ぐための社会的措置を次の段階に移行させるための手引きを公開した。各国政府の中には、COVID-19を引き起こすウイルスであるSARS-CoV-2に対する抗体が検出されれば、COVID-19に再感染しないと見做し、抗体保有を旅行や職場復帰を可能にするという「免疫パスポート」や「リスクフリー証明書」発行の根拠として利用しようという動きがある。現時点では、COVID-19感染から回復し、抗体を持っている人が、再び感染しないという科学的根拠は無い。
COVID-19に対する抗体の検出方法
自然感染下での抗原に対する抗体の産生はいくつもの過程を経るので、一般的には1〜2週間以上かかる。ウイルスが感染すると、身体は即座にマクロファージ、好中球、樹状細胞がウイルスの感染拡大を遅らせ、さらには感染症の症状が出る前に排除してしまうような、非特異免疫による自然免疫応答を開始する。自然免疫応答の後に、ウイルスなどの抗原に特有な抗体が作られる適応免疫応答(獲得免疫)が開始される。抗体は、免疫グロブリンと呼ばれるタンパク質である。さらに、ウイルスに感染した細胞を識別し、排除するT細胞が産生される。これを細胞性免疫と呼ぶ。これらの免疫反応によりウイルスが身体から排除され、免疫反応が十分に強力であれば、重症化するのを防ぐことができたり、同じウイルスに再び感染しなくなったりする。この作用は多くの場合、血液中の抗体の有無によって調べられる。
WHOはSARS-CoV-2に対する抗体に関する研究についての調査を継続的に行っている。ほとんどの研究で、COVID-19感染から回復した人はSARS-CoV-2に対する抗体を持っていることが示されている。しかし、感染から回復した人の中には血中の中和抗体が非常に低いレベルの人もおり、COVID-19感染からの回復に細胞性免疫が非常に重要な働きをしている可能性があることを示唆している。2020年4月20日現在、SARS-CoV-2に対する抗体を持っていることが、このウイルスが人に感染して引き起こされる感染症に対する免疫を持っていると結論づけられる研究結果はない。
迅速免疫診断検査を含む人体内のSARS-CoV-2に対する抗体の有無を調べるための各種検査には、正確性と確実性を確認するためのさらなる調査が必要である。正確性の低い免疫診断検査によって、感染している人を陰性と判定することと、感染していない人を陽性と判断することという、2種類の間違った判断が生じてしまう。どちらの判定ミスも重大な結果に繋がり、感染拡大防止対策に悪影響を及ぼす。検査ではさらに、SARS-CoV-2感染と他の6種類のコロナウイルスによる感染を正確に区別することが求められる。6種類のうちの4種類は普通の風邪を引き起こすウイルスであり、広く分布している。残りの2種類はそれぞれ中東呼吸器症候群(MERS)と重症急性呼吸器症候群(SARS)である。6種類のコロナウイルスのうちのどれかに感染したことがある人は、SARS-CoV-2に対する抗体と交差反応(交叉反応)を起こす抗体を産生するかもしれない。
多くの国で、全国民を対象とした範囲や、医療従事者、陽性患者の濃厚接触者、世帯内などの特定の集団の範囲で、SARS-CoV-2に対する抗体の有無を調べる検査が行われている。このような検査は感染拡大の程度や、感染のリスク要因を把握するために非常に重要であるので、WTOは支持している。これらの検査により、COVID-19に対する抗体が検出できる人の割合を知ることができるが、そのうちのほとんどの検査は二次感染を防ぐための免疫ができていることを調べるために開発されたものではない。
その他の考慮すべき事項
現時点では、「免疫パスポート」や「リスクフリー証明書」の正確性を保証できるほどの、抗体媒介性免疫(antibody-mediated immunity)の有効性を示す研究結果は得られていない。抗体検査で陽性だったからといって再感染しない免疫がついたと思い込む人は、公衆衛生学的見地からの助言を無視していることになるだろう。それゆえに、そのような証明書の使用によって感染拡大が継続する危険性が高まる恐れがあるだろう。新たな研究結果が得られ次第、WHOはこの科学的概要を更新する予定である。
(出典リストは原文を参照)
WHOはこの暫定的な手引きに影響があるいかなる変化も見逃さないように、状況の監視を続ける。何らかの要因に変化があれば、WHOは情報を更新する。更新等がなければ、この科学的概要は公開日から1年後に失効する。
翻訳元記事