新型コロナウイルスと恐怖計画3.0

The Coronavirus and Project Fear 3.0

2020年5月7日

このような恐怖戦略はイギリスのEU離脱やトランプ大統領に対する反対運動で用いられてきた。

ああ、また恐怖計画が始まった。コロナ後の政治が数年間にわたり破滅する危機に瀕している。恐怖計画とは、2016年の欧州連合離脱を問う国民投票の期間に、David Cameron首相(キャメロン首相)が展開した離脱反対運動の戦略の名前である。その目的は、もしかするとEU離脱に投票してしまう可能性のある穏健派の有権者を恐怖におののかせて離脱に投票しないようにすることだった。

「残留派」は、もし有権者がEU離脱に投票した場合の悲惨な結末を警告するような経済分析を絶え間なく流すという戦略を提唱した。経済は縮小し、失業率は急上昇するだろう。さらに悪いことに、EU離脱によりイギリスの世界的な影響力が低下するだろう。このことは精神的・道徳的退廃の前兆となるだろう。このような方法で、恐怖計画は、ヨーロッパという枠組みに対する疑問を政治的論争から道徳的聖戦に変貌させようと試みた。

アメリカ人はトランプ氏の大統領選時代にアメリカ版恐怖計画を経験した。トランプ氏の政策の良し悪しが十分に議論されることはなかった。大半のメディアや右派・左派の政敵は、トランプ氏は共和政体に対する致命的な脅威だと喧伝した。糾弾するのがトランプ氏の権威主義的傾向であるにしろロシアとの結託であるにしろ、全てが恐怖を煽るためのものだ。

案の定、ここにきて恐怖計画3.0である。このコラムでは、政策決定者が、まだ暫定的で議論の最中である「科学」よりも、感染爆発への厳しい対策に対してうるさく騒ぎ立てる大衆の要求を解釈したものに誘導されようとしている様子を見てきた。重要なのは「解釈したもの」という言葉である。様々な国民の抗議の声が存在したとしても、恐怖を煽りたくてたまらないメディアによって都合の良いように取捨選択されてしまうからだ。

危機がだらだらと長く続けば続くほど、恐怖は作為的な度合いが高まっていく。我々は今では初期の中国のデータで示されていたほど新型コロナウイルスが命に関わるようなものではないことに気づいている。医師たちはより効果的な治療法の開発に尽力しており、効果が期待できそうな薬もある。どのような特徴の人が新型コロナウイルス感染に対してより脆弱なのか判明すれば、重症化しやすい人たちを効率的に守るより一層洗練された対策が取られるようになるだろう。

上記のようなことは、新型コロナウイルスに関する恐怖に変化をもたらすだろう。この変化は、この感染症の深刻性を否定することによって起こるのではなく、このウイルスに関して分かることが増えれば停止している経済の再開と感染拡大リスクのバランスをとる方法が見つかるかもしれないことを理解することによって起こるのだ。

しかし、この変化はメディア、政権運営者、さらには一部の民衆の間では怒らないだろう。恐怖計画は人々の行動を支配する手段として、ヴァーチュー・シグナリング(自分は正しい政治的観念を持っていると主張すること)の方法として、魅力的すぎるからだ。

単純化すると、政策の理論的根拠がより一層理解し難いものになっても、恐怖戦略は政策決定者が人々に厳しい経済活動の停止を遵守させるのを容易にするのである。しかし、このような恐怖の利用は、その運動の一般大衆の活動家の脳の快楽中枢も刺激する。

ソーシャルメディアでロックダウン(感染拡大防止のためのあらゆる活動の停止)違反者やロックダウンに抗議する人を「covidiots(感染拡大防止に協力しない馬鹿者)」と非難して楽しむ人々がいることを知っているだろう。恐怖計画は、あなたは他の人々よりも賢く、迫り来る未来の災難を予知することができ、無知蒙昧な人々から社会をより上手く守ることができる、と信奉者の感覚に訴えることで機能するのだ。さらに、自分が「生命」の価値に重きを置く立場を取っていて他者が「経済」のみを重視している時に得られる道徳的優位性による満足感も軽視してはならない。

この原理は、我々が今後数週間で不可避的にロックダウンから抜け出すのにつれて、深刻だが驚くべき問題を示すことになる。政府が緊急事態を解除したにもかかわらず人々が外出することを拒否することで、ロックダウンからの復旧に必要な経済活動を増大した恐怖が凌駕することに表面的には困惑することになるかもしれない。もしかすると、だが。

しかし、近年、特に恐怖計画側の努力も虚しく有権者が2016年にEU離脱に投票することやトランプ候補に投票することを選んだ後も世界が終わらなかったことを目の当たりにした後には、恐怖に基づいた政治は効果的ではなくなってきているようだ。早期にロックダウンを緩和してもウイルス感染拡大の大惨事にはつながらないのではないか、という考えが、ソーシャルディスタンシングの基準のように不自然な感染拡大防止策によって浸透したようには思われない。

それよりも問題なのは、繰り返し行われる恐怖計画が、その影響力を失った後でさえ、完全な失敗にはならない傾向にあることだ。恐怖にとらわれるとその考えが間違っているという証拠にも目がむかなくなる傾向にあり、恐怖はそれを最も説得力があると見なす少数派の間で燻り続ける。そしてゆくゆくは政治を変えてしまう。

2019年のYouGovの調査によると、2016年の国民投票でEU残留に投票した有権者は、EU離脱は仕事に悪影響を及ぼし、経済を悪化させ、イギリスがテロ攻撃を受ける危険を増大させたという確信を時間の経過とともに強めていることが明らかになった。1月に行われた別のYouGovの調査では、残留派はゆっくりではあるが国民投票に対する怒りを鎮めつつあることが分かった。38%の残留派が、EU離脱の結果に怒りを感じ、否定しており、離脱の決定を覆そうと決意しているという。イギリスの政治がこれほど混乱しているのは不思議ではないだろうか?国民投票に負けた側は、自分たちが負けたのは実存主義的闘争というより政治的論争だと、非常にゆっくりとしか認められないようだ。アメリカでは、これが「トランプ錯乱症候群(Trump Derangement Syndrome)」の原因である。

多くの脆弱な人々の生命を脅かす病気であるCovid-19は、イギリスのEU離脱とトランプキャンペーンよりもずっと大規模な問題だ。しかし、似たような結果となる危険性が見えてきている。いったん政治に恐怖が感染すると、なかなか治らず長引く傾向があるのだ。

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